ことば漬
前口上
あいつは花の蕾だ。ミラーニューロンを隠している。
そいつは連射式機関銃だ。意味の弾丸がこもる。
こいつは漬物だ。糠床がなければ発酵しやしない。
縮みもするし、分けられもする言葉たち。
国語にも条文にも、洒落にもポップスにもなる連中。
走らせてもみたく、脱してもみたく、千代紙にもしてみたい。
(前口上・松岡正剛)
「エディトリアリティ」を追求しながら苛烈な「ことば漬」の日々を疾駆してきた松岡が、折々に千夜千冊してきた言葉感覚の本たちを自在に組み合わせ、斬新な味付けでエディション化してみせた。「言葉と接するにはときどきリロケーションをさせる」「惚れた言葉にはジャケットを着せる」「母国語に夢中になる」「未知の分野の言葉づかいを覗いておく」という深甚な志操が込められている。
第1章 省く・縮める
なぜ日本人は五七調・七五調を好むのかという謎を冒頭に置いて、みずみずしい小学生の俳句と風狂俳人の下血のような俳句を、寺山修司の言葉の方舟と俵万智のサラダ記念日を、平田俊子の雨傘期と芥川龍之介の侏儒の言葉を取り合わせ。外山滋比古のいう「日本語の不決定性」のおもしろさを案内する。
第2章 類で分けて
松岡が座右の一冊としている『角川類語新辞典』ほか、『あいまい語辞典』『あいづち・つなぎ語辞典』『世界毒舌大辞典』『下等百科辞典』『犬のことば辞典』などのユニークな言葉の辞典を連打紹介。現代社会のコトバの症例と現象を痛烈に掬った『プラスチック・ワード』と『「おネエことば」論』も収録。
第3章 日本語の謎
太安万侶、貫之、定家、宣長、漱石、時枝誠記の六人に焦点をあてて日本語がいかに「つくられたか」を解き明かす小池清治の充実の一冊を核に、五十音図誕生の謎にも触れつつ、イ・ヨンスク、福田恆存、水村美苗、リービ英雄、イアン・アーシーらの日本語に対する志操と鋭敏な感度を紹介する。
第4章 ことばと背景
母語と母性と母型の関係をたどる『内なるミューズ』、言語文化の奥にひそむ内言語をさぐる『身ぶりと言葉』、言葉の技巧の作用を解く『レトリック』、「話」の構造を明らかにした『人はなぜ話すのか』、英語の殺害力を暴いた『消えゆく言語たち』などの名著や問題作を揃えて、ことばの背景と現在に鋭く迫る。
付録 レーモン・クノー『文体練習』
たった一つの光景を描写する一つの文章を、99連発で自在に変容してみせたレーモン・クノーの『文体練習』を紹介する特別付録。その遊術・遊知の方法に、松岡は大きな影響を受けてきた。
『ことば漬』
第1章 省く・縮める
- 779夜 高柳蕗子 『はじめちょろちょろなかぱっぱ』
- 362夜 金子兜太・あらきみほ 『小学生の俳句歳時記』
- 569夜 蕗谷虹児 『花嫁人形』
- 330夜 種田山頭火 『山頭火句集』
- 122夜 石川桂郎 『俳人風狂列伝』
- 413夜 寺山修司 『寺山修司全歌集』
- 312夜 俵万智 『サラダ記念日』
- 193夜 平田俊子 『平田俊子詩集』
- 399夜 外山滋比古 『省略の文学』
- 931夜 芥川龍之介 『侏儒の言葉』
第2章 類で分けて
- 775夜 大野晋・浜西正人 『角川類語新辞典』
- 1184夜 水庭進編 『現代俳句表記辞典』
- 103夜 芳賀綵・佐々木瑞枝・門倉正美 『あいまい語辞典』
- 797夜 W・J・ボール 『あいづち・つなぎ語辞典』
- 1685夜 ウヴェ・ペルクゼン 『プラスチック・ワード』
- 249夜 ジェローム・デュアメル 『世界毒舌大辞典』
- 176夜 大槻ケンヂ 『ボクはこんなことを考えている』
- 718夜 松本修 『全国アホバカ分布考』
- 303夜 尾佐竹猛 『下等百科辞典』
- 1553夜 クレア・マリィ 『「おネエことば」論』
- 242夜 きたやまようこ 『犬のことば辞典』