全然アート
前口上
フェルメールと八大山人を、洞窟画とコーネルの箱を、
ダダと棟方志功とジャコメッティを、対角線に語って全然かまわない。
ベルニーニと朝倉文夫にまたがる感応のトルソー、
エゴン・シーレとフランシス・ベーコンと森村泰昌の肖像アート。
自然ー沛然、毅然ー婉然、俄然ー当然、断然ー漫然、超然にして騒然。
美術はずっと前から全然アートだったのである。
千夜千冊が扱ってきた古今東西のアーティストのなかから、とりわけ松岡が触発され、贔屓にしてきた大胆無敵の異能者たちが勢ぞろい。未然のアートから、忽然アート、慄然アート、艶然アートまで、松岡ならではのキュレーションによって、美術が発見し営んできた思考と技術の方法論の数々を繙いていく。
第1章 ルーツを覗く
ショーヴェの洞窟画とトゥアンの場所論を先頭に置き、トポスがアートの源泉であることを提示。水墨画の滲みとダヴィンチの明暗法を対比させ、奇態のカラヴァッジョ、歪みのベルニーニ、光のフェルメールと、松岡好みのバロックアーティストを連打し、19世紀のロマン主義を彩ったターナーのピクチャレスクとラスキンの画家論までを一望する。
第2章 北斎・ピカソ・ジャコメッティ
本章は近代の個性豊かなアーティストが並ぶ。八大山人が到達した墨戯、ピカソの肖り、ツァラのダダ宣言、マンレイの脇見アート、マレーヴィチの無の徹底、ジャコメッティの50グラムの勇気…。『本朝画人伝』と『ロココからキュビズム』で東西の鬼才を総ざらい。ラストは北脇昇の画業を通して、日本前衛絵画の黎明期を覗く。
第3章 アートワールド
デュシャンの反逆によって、切り拓かれた現代アートの諸相を追う章。ボイスはコヨーテとなって咆哮し、パイクはいくつものテレビを磁石で操作する。クラウスが見抜いた「代」の策略とは一体何なのか。後半には盟友、杉本博司と森村泰昌が揃い踏み。ラストの「現代アートとは何か」で、欲望と矛盾が渦巻くアートワールドの行く末を問う。
第4章 静かに、過激に
本章では松岡が偏愛するアーティストたちが名を連ねる。鉄斎の逸格性と大観の壮大さに共感し、岸田劉生の《麗子像》をルーペで覗き、棟方志功の「女者達」に憧れる。オキーフの花、コーネルの箱、バルテュスの少女たちに官能し、シーレとベイコンの痛々しい作品から、異能の切なさを感じ取る。松岡があらゆる場面で言及してきたイサム・ノグチも登場。
『全然アート』
第1章 ルーツを覗く
- 1769夜 デヴィッド・ルイス=ウィリアムズ 『洞窟のなかの心』
- 1694夜 イーフー・トゥアン(段義孚) 『トポフィリア』
- 607夜 矢代幸雄 『水墨画』
- 25夜 レオナルド・ダ・ヴィンチ 『レオナルド・ダ・ヴィンチの手記』
- 1031夜 ヴィクトール・ストイキツァ 『絵画の自意識』
- 1497夜 宮下規久朗 『カラヴァッジョ』
- 1034夜 石鍋真澄 『ベルニーニ』
- 1094夜 アンソニー・ベイリー 『フェルメール』
- 1221夜 ジャック・リンゼー 『ターナー』
- 1045夜 ジョン・ラスキン 『近代画家論』
第2章 北斎・ピカソ・ジャコメッティ
第3章 アートワールド
- 57夜 マルセル・デュシャン&ピエール・カバンヌ 『デュシャンは語る』
- 1778夜 ロザリンド・E・クラウス 『視覚的無意識』
- 1753夜 アーサー・C・ダントー 『ありふれたものの変容』
- 1102夜 トニー・ゴドフリー 『コンセプチュアル・アート』
- 1656夜 ハイナー・シュタッヘルハウス 『評伝ヨーゼフ・ボイス』
- 1103夜 ナム・ジュン・パイク 『バイ・バイ・キップリング』
- 1037夜 菅原教夫 『日本の現代美術』
- 790夜 坂根厳夫 『拡張された次元』
- 1704夜 杉本博司 『苔のむすまで』
- 890夜 森村泰昌 『芸術家Mのできるまで』
- 1785夜 小崎哲哉 『現代アートとは何か』