少年の憂鬱
前口上
少年はこの世で一番わかりにくい哲学だ。
ピュアな存在のようでいて、遊べば孤独になるし、
一人になれば、妄想に耽って悪だくみばかりを考える。
いつも友を求め、オトナの魂胆を見抜いて、
誰と「ぐる」になればいいのか、こっそり決めている。
そんな少年の憂鬱な浪漫がたまらない。
(前口上・松岡正剛)
大人たちがかつて夢中になった名作の数々から、少年の香ばしい苦みを抽出し結晶化した一冊。悪だくみの種を内に育て、ときに無謀な冒険へと繰り出す絶対少年たち。“つもり”を憧憬し妄想にふけながらも、胸中には瑞々しい“傷”を抱えていた遠い記憶。石川啄木、野口雨情の哀切や、少年セイゴオの愉快を交え、大人たちが失なってしまった「幼ごころ」を追慕する。
第1章 失われた時へ
プルーストからカポーティにおよぶ作家たち。「絶対少年が失ったものとは何だったのか。プレヴェールと中勘助、啄木の瑞々しくも痛々しい表現を借りて追慕する。「ゴムの匂いがしている。金色のシンバルが鳴っている」、「己が名をほのかに呼びて涙せし 十四の春にかへる術なし」。
第2章 幼な心の秘密
方法の秘密は「幼なこごろ」にある。ラルボーは子どもたちの香ばしい失望を描きだし、大人が失った「よそ」や「ほか」や「べつ」を暗示する。絶対少年たちはなぜ無謀な冒険やキワドイものに憧れるのか。ハックルベリィや十五少年やルパンやピノッキオの動向にその秘密をさぐる。盗めよ、さらば与えられん!
第3章 大人になりたくない
大人になりたくない少年たちは、「つもり」の世界に遊び、幻想に自らを重ねていく。ノヴァーリスは暗い森の先に青い花を見つけ、バリはピーターパンになって、ネヴァーランドで愉快な仲間たちと戯れる。鉱物にもルーベンスの絵にも、少年の夢が潜んでいる。メーテルリンクは青い鳥に何を託したのか。
第4章 菫色の悪だくみ
少年は実は内心で何を妄想しているのかわからない悪童でもあった。デミアンは世界の「負」を暗示し、オスカルは「悪だくみ」を胸にブリキの太鼓を叩き、狂気にとりつかれた少年たちは蝿の王を崇める。キングの巧みなストーリーテリングが、少年たちのひと夏の旅に、青春の闇を浮き上がらせる。
第5章 憂鬱も悲哀も憧憬も
アンビバレントな少年像の中には、その半面、「哀切」というものが横溢する。有島は悲痛な文章でもって、わが子に存在の不幸を突きつけ、キリコは父の死のイメージを内面にたずさえ、意外な幻想譚を綴った。雨情と白秋の泣きたくなるような童謡で、少年の「痛切」を感じとる。
第6章 わが少年期の日々
松岡自身の昭和少年時代にどんな近所の光景があったのか、走馬灯のように綴った章。谷内六郎の絵やチャンバラごっこや駄菓子屋に足をとめる。日本野鳥の会をおこした中西悟堂の波乱万丈の日々に驚嘆する。ビー玉とメンコ、キノコと乾電池、クラマ天狗とタンゲ左膳。10円玉を握れば何だって想像できた日々。
『少年の憂鬱』
第1章 失われた時へ
- 788夜 ジャック・プレヴェール 『金色の老人と喪服の時計』
- 31夜 中勘助 『銀の匙』
- 1148夜 石川啄木 『一握の砂・悲しき玩具』
- 935夜 マルセル・プルースト 『失われた時を求めて』
- 38夜 トルーマン・カポーティ 『遠い声・遠い部屋』
第2章 幼な心の秘密
- 1169夜 ヴァレリー・ラルボー 『幼なごころ』
- 389夜 ジュール・ヴェルヌ 『十五少年漂流記』
- 611夜 マーク・トウェイン 『ハックルベリイ・フィンの冒険』
- 407夜 チャールズ・ディケンズ 『デイヴィッド・コパフィールド』
- 516夜 カルロ・コッローディ 『ピノッキオの冒険』
- 117夜 モーリス・ルブラン 『奇巌城』
第3章 大人になりたくない
第4章 菫色の悪だくみ
- 479夜 ヘルマン・ヘッセ 『デミアン』
- 410夜 ウィリアム・ゴールディング 『蝿の王』
- 153夜 ギュンター・グラス 『ブリキの太鼓』
- 680夜 ロートレアモン 『マルドロールの歌』
- 40夜 オスカー・ワイルド 『ドリアン・グレイの肖像』
- 346夜 ジャン・ジュネ 『泥棒日記』
- 827夜 スティーヴン・キング 『スタンド・バイ・ミー』