こういう辞典が読まれるべきである。著者は長年にわたって流行語を追跡した国語学者。だから、蓄積がずっしり、選択がぴっしりしている。
何が扱われているかというと、大蔵省から芸者まで、株屋から暴走族まで、映画業界から風俗業界まで、ヤクザからスチュワーデスまでの、ともかく集団という集団の隠語辞典なのである。
ちなみに「ら」のところを少しだけご披露しておくことにする。
羅漢=睡眠中の人物あるいは逃亡者、行方不明者。
楽=千秋楽。
らくだ=芸者用語で連れ立った夫婦のこと。
らさ=「さら」(新品)のこと。香師用語。
ラジオ=学生用語。所持金がないこと。
無銭=無線。
LAX=都市空港コードでロスアンゼルスのこと。
らてめん=ラジオ・テレビ欄。
ラビット=囚人言葉で「おから」。
らむちゃん=ゲーム用語で「色気なし」。「ムラっとこない」の逆倒語。
ランスルー=テレビ用語で本番同様のリハーサル。
乱手=証券用語。市場混乱を狙う取引。
ランド屋=旅行用語。現地の手配屋。
だいたいジャーゴンの量が多い業界ほどすたれないという。その理由ははっきりとはわからないが、そのぶん体に染みこんでいる連中が、体から体へ、何か重要なものを伝播してきたということなのだろう。
その「何か重要なもの」というのは、それこそがさしずめ「ミーム」(意伝子)というものなのである。