才事記

縞々学

川上紳一

東京大学出版会 1995

 だいたい1990年前後のことだったろう。水沢国立天文台の内藤勲夫は地球の変動にはどうも倍周期があるらしいことに気がついた。徳島大学の川上博は非線形力学系のファレイ数列に一組のリズム関係があることに注目していた。
 すでに東工大の丸山茂雄や磯崎行雄が地球史プロジェクトと称して世界各地の岩石を収集して、これを横断的にさかのぼる研究をはじめていた。丸山さんのプロジェクトにはぼくも注目していて、ときどきシンポジウムに出てもらった。そこへさらに名古屋大学の熊沢峰夫はGET(全地球的事変テクトニクス・セミナー)を開催して、地球的規模でおこる変動や突発事態に共通する変数の発見を共同研究することをよびかけた。
 これらは、総じてプレートテクトニクス理論の登場によって従来の地球科学の壁が突破されたことをきっかけに、新たなテクトニクスの未来をさぐろうという試みであり、その試みが研究者仲間のあいだでいつしか「縞々学」とよばれるようになっていたものだった。なにしろテクトニクスなら大地震や大海溝の多い日本が本場なのである。ネーミングは川上紳一が名古屋大学の修士だったころの水谷仁・深尾良夫らの仲間の一人であった古本宗充によるらしい。
 縞々学とは、ようするに「全地球史解読計画」(これをDEEPという)をリズムの解読ですすめようというプロジェクトのことである。
 リズムとは周期的変動性のことをいう。地球の磁場のリズム、気候のリズム、太陽活動のリズム、月のリズム、銀河のリズム、さらには生物活動がつくっているリズム、地軸の傾きがつくるミランコビッチ・サイクルなど、地球にひそむリズムはそうとうに多様で、複雑になっている。縞々学はこれらのなかに共鳴関係を見出そうというわけだ。
 縞々学はもともと寺田寅彦に発している。そうおもいたい。寺田寅彦は「割れ目」の模様に着目した世界で最初の科学者だった。化学的な縞模様をつくるリーゼンガング現象なども寺田寅彦によって初めて意義深いものになっている。
 この「割れ目」学がやがて平田森三の名著『キリンのまだら』となり、さらにはフォン・ベルタランフィの一般システム理論やウォディントンの発生現象学などと結びついたころ、ぼくは「割れ目」学の継承者であることを宣言して、当時の『遊』にとりあげたものだった。
 が、縞々学はさきほども書いたように生物学や化学から生まれたというよりも、プレートテクトニクス理論以降の地球科学から生まれた。今後はこれらがふたたび「生きもの」をまきこんでくれることを期待する。

参考¶著者は現在は岐阜大学教育学部にいる。縞々学の参考図書はいくらもあるが、このグループの生みの親ともいうべき島津康男の『地球の物理』(裳書房)が元々のテキストだろう。もっと元になっているのはフォン・ベルタランフィの『一般システム理論』(みすず書房)。地球史としては丸山茂徳・磯崎行雄の『生命と地球の歴史』(岩波新書)、わかりやすいところでは浜野洋三『地球の真ん中で考える』(岩波書店)。