金子兜太・あらきみほ
小学生の俳句歳時記
蝸牛新社 2001
ISBN:4878001518

 昔、「がっがっが鬼のげんこつ汽車がいく」という小学生の俳句に腰を抜かしたことがある。
 それを教えてくれたのは初音中学の国語の藤原猛先生だった。難聴の藤原先生はそれを大きな声で言い、「どうや、こういうのが俳句なんや」と言った。
 本書にもそういう句がある。腰を抜かしたものもある。この本と同じ版元で同じ金子兜太監修の『子ども俳句歳時記』という有名な本があって、そこにもびっくりする句が多かったが、この本の句もすごい。あらきみほのナビゲーションも絶妙。
 ともかくも、以下の句をゆっくり味わってほしい。
 すぐに俳句をつくりたくなったらしめたものだが、おそらくそれは無理だろう。あまりの出来に降参するというより、しばらくは、いったい自分が何をしてきたのか、しばし絶句するというか、放心するにちがいない。
 とくに理由はないが、あえて本書に並んでいた季節の順や年齢の順をシャッフルしておいた。

あいうえおかきくけこであそんでる(小2女)
(最初からドカン! これはね、レイモン・クノーですよ

ぼんおどり大好きな子のあとにつく(小6女)
(トレンディドラマなんてこれを越えてないかもしれない)

まいおちる木の葉に風がまたあたる(小5男)
(素直だが、こういう詠み方こそ斎藤茂吉なんです

ねこの耳ときどきうごく虫の夜(小4女)
(「ときどきうごく」と「虫の夜」がエントレインメント)

くりごはんおしゃべりまぜて食べている(小3女)
(ぼくのスタッフで昼食でこんな句をつくれる奴はいない)

あきばれやぼくのおりづるとびたがる(小1男)
(おい1年生、おまえは山村暮鳥か、それとも宮沢賢治か

座禅会むねの中までせみの声(小6男)
(座禅もして、蝉しぐれを胸で受けるなんて、ああ)

かいすいよくすなやまかいがらすいかわり(小1女)
(傑作です。海水浴砂山貝殻西瓜割。すでに寺田寅彦だ)

風鈴に風がことばをおしえてる(小4女)
(あれっ、これは草田男か、日野草城にさえなっている)

ドングリや千年前は歩いてた(小5男)
(小林達雄先生に教えたくなるような悠久の名句です)

海の夏ぼくのドラマはぼくが書く(小2男)
(おいおい、ミスチル・スマップより男らしいぞ)

ぶらんこを一人でこいでいる残暑(小6男)
(ふーっ、てっきり種田山頭火かとおもってしまった)

春風にやめた先生のかおりする(小4女)
(うーん、まいったなあ。中勘助ですねえ、これは)

ガリバーのくつあとみたいな夏のくも(小1女)
(雲を凹型で見ている。押し付けた雲だなんて、すごい)

夏みかんすっぱいあせをかいちゃった(小1男)
(「ナッちゃん」なんて商品でごまかす場合じゃないよ)

なのはなが月のでんきをつけました(小1女)
(これは未来派イナガキタルホだ、今回の最高傑作)

せんぷうき兄と私に風分ける(小5女)
扇風機の人工風をシェアするとは、なんとまあ)

転校の島に大きな天の川(小4男)
(ボグダノヴィッチや新藤兼人が撮りそうな風景だな)

つりばしがゆれてわたしはチョウになる(小3女)
(あなたに抱かれて私は蝶になる、なんて歌、はずかしい)

水まくらキュッキュッキュッとなる氷(小5女)
(知ってますね、「水枕ガバリと寒い海がある」西東三鬼)

そらをとぶバイクみたいなはちがくる(小1男)
(見立てもここまで音と速度が入ると、立派な編集術だ)

しかられたみたいにあさのバラがちる(小2女)
(朝の薔薇に着目するとは、利休? 中井英夫?)

かっこうがないてどうわの森になる(小3女)
(「桃色吐息」なんて小学3年生でもつくれるんだ)

星を見る目から涼しくなってくる(小4男)
エルンストが「星の涼風を目に入れる」と書いていた)

いなごとりだんだんねこになるわたし(小1女)
(「だんだんねこ」→「段々猫」→「だんだらねえ子」)

夏の日の国語辞典の指のあと(小5女)
(完璧である。推敲の余地なし。大人は反省しなさい)

墓まいり私のごせんぞセミのから(小4女)
(おお、戸川純だよ。まいった、参った、詣いりたい)

あかとんぼいまとばないとさむくなる(小1男)
(小学校1年でウツロヒの哲人?)

青りんご大人になるにはおこらなきゃ(小6女)
(よくも青りんごを持ち出した。大人にならなくていいよ)

あきまつりうまになまえがついていた(小2女)
(この句はかなりすごい。談林の句風がこういうもの)

あじさいの庭まで泣きにいきました(小6女)
(こういう子を引き取って、ぼくは育ててあげたいなあ)

天国はもう秋ですかお父さん(小5女)
(いやはや。何も言うことはありません。もう秋ですよ)

台風が海をねじってやってきた(小6女)
(ちょっとちょっと、このスケール、この捩率感覚!)

話してる文字が出そうな白い息(小6男)
(はい、寺山修司です。ISIS編集部に雇いたいくらいだ)

えんぴつが短くならない夏休み(小6女)
(鉛筆も思索も短くならない夏休みを大人は送っている)

秋のかぜ本のページがかわってる(小2女)
波郷か、グリーナウェイだ。風の書物の到来なんですね)

コメントは受け付けていません。