才事記

ぼくはグルメでもなく粗食派でもなく、自然派でもジャンク派でもない。たんに食に無頓着に生きてきただけなのだが、なぜか周囲にはぐるりと食通や食文化研究家やオーガニック派がとりまいている。
おかげでぼくは栽培も調理も何もできないのに、とてもおいしいものが身近にやってきてくれることも多い。「新潟の樹液が一番おいしかった」と言って、カエデの樹液を小瓶に入れてもってきてくれるエヴァレット・ブラウンがいたり、糠床を分けながら発酵を社会学しているドミニク・チェンのような俊英もいる。そんなこともあって、最近はその手の本を読むこともふえてきた。
たとえば小倉ヒラク『発酵文化人類学』(木楽舎)、中島春紫『発酵の科学』(講談社BB)などである。大いに啓発された。小倉クンは「発酵デザイナー」を標榜して、ついに「発酵する、ゆえに我あり」に到達した。中島さんは日本伝統の「さしすせそ」調味料のうちの、す(酢)せ(醤油)そ(味噌)を分け入って、縦横無尽な解説をしてみせた。遅ればせながらエドワード・ハウエルの『酵素の力』(中央アート出版社)も読んでみた。
発酵もそうだが、ともかくも微生物がやっていることが凄いのだ。知れば知るほど興味深い。最近はモントゴメリー&ビクレーの『土と内臓』(築地書館)、エムラン・メイヤーの『腸と脳』(紀伊国屋書店)に感心した。モントゴメリーは『土の文明史』でも唸らせた土壌科学者である。植物の根とヒトの内臓が直結していることがよくわかった。当然アレルギーもそこが要因なのである。
ぼくはストレスがたまらないほうなのだが、それでも「片腹痛い」ことや「腑に落ちない」ことはしょっちゅうおこる。メイヤーはENS(腸管神経系)とマイクロバイオームの研究者で、われわれがいかに「おなかで考えているか」を証している。『腸と脳』を読むと、会話は腸内の井戸端会議なんだということが、よくわかる。