才事記

佐藤優さんと対談した『読む力』(中公新書ラクレ)がよく売れている。もとは「中央公論」で連載したもので、中公創刊後の130年の東西論壇を駆け足で評定するという無謀な趣旨だったが、実際はかなり脱線した。その脱線が好評なのだという。たしかに本はまともに論壇批評するよりも、どうしてわれわれには「読みの深浅」や「読みの好き嫌い」がおこるのかということのほうが、ずっとおもしろいはずなのだ。
ところで脱線のなかで二人が一致したのは、「読書には伯楽が必要だ」ということだった。佐藤さんもぼくも、子供時代や青春時代に「本」と「読み」とを刺激してくれた先生や先輩たちがいたことがかなり共通していたのである。しかも二人ともその伯楽の指示をまともに守り、いまなおその読書体験を一種のベースキャンプ」にしていたのだった。
本というもの、孤立していない。どんな本にも親類縁者がいて、本から本へとつながっている。仮に若き日々に伯楽に恵まれなかったとしても、自分が出会った数冊の本を前後左右に数十冊数百冊に広げて読んでいくのが、一番愉しい「読みの舌鼓」をもたらすはずなのである。