父の先見
◆芥川賞をとった諏訪哲史の『アサッテの人』は吃音の叔父が主人公で、文芸的失語感覚あるいは哲学的奇行とでもいうべきものを扱って、この才能はなかなかビリビリさせるものがあるなと思っていた。
◆『ロンバルディア遠景』では、イタリアに旅立ったまま消息を絶った若い詩人の詩稿と書簡から、異様な試作が炙り出されてくるというふうで、これまた感心した。いったいこの男は何者かと気になっていたのだが、『偏愛蔵書室』を見てなるほどと合点した。諏訪が何を好んで読んできたのかを自白した本だ。
◆案の定、李賀、ホフマンスタール、露伴、ラヴクラフト、フォークナーで、なおかつゲオルク・ハイム、鷲巣繁男、山崎俊夫なのである。これはかなりのビョーキだ。おまけに大泉黒石や沼正三や山口椿に惑溺できている。諏訪君、もっと自白をしつづけてね。