父の先見
◆本の話ではないけれど、どうしても一言。ラグビージャパンはよくやった。予選リーグは実に愉快だった。何度も観たが、そのたびにキュンキュンした。堀江、松島、福岡には泣かされた。これまでは力不足だった田村もよかった。リーチ・マイケルのサムライぶりがやっと全国に伝わったのも嬉しかったが、こういうサムライは世界のラグビーチームには、必ず2~3人ずついるものだ。
◆準々決勝の南ア戦は平尾誠二の命日ともあって、まるで正座するかのように固唾をのんで観戦したけれど、隙間や溝を突かれて、力と技を徹底的に封印された。リーチも田村もルークも姫野もイマイチだった。CTBの中村のタックルとフルバックの山中の成長を評価したい。
◆何度も平尾との日々を思い出した。5年ほど前は体が辛そうだった。平尾とは対談『イメージとマネージ』(集英社文庫)が残せてよかったと、つくづく憶う。あのときの出版記念パーティには松尾たちも来てくれて、大いに沸いた。美輪明宏さんが「いい男ねえ」と感心していたのが懐かしい。まさにミスター・ラグビーだったが、繊細で緻密でもあった。「スペースをつくるラグビー」に徹した。
◆これでラグビー熱が盛り上がってくれるのは待ち遠しいことだったけれど、まだまだ時間はかかる。トップリーグよりも、冬の花園の高校生たちの奮闘を観てもらうのが、おそらくいいのではないかと思う。ただし、カメラワークをもっとよくしなければいけない。
◆さて本の話にするが、先だってぼくの『国家と「私」の行方』〈東巻〉〈西巻〉(春秋社)の中国語訳が完成した。孫犁冰さんが渾身の翻訳をしてくれた。『歴史与現実』という訳になっている。孫さんは新潟と上海を行き来して、日中の民間外交に貢献している気鋭の研究者で、すばらしいコミュニケーターだ。イシス編集学校の師範代でもある。
◆これで、ぼくの中国語訳本は『山水思想』についで3冊になった。韓国語になった本が7冊になっているので、少々は東アジアと日本のつながりの一助を担ってくれていると信じるが、日中韓をまたぐこういう「言葉のラグビー」や「思想文化のまぜまぜアスリート」は、いまはまだからっきしなのである。中国文化サロン、日本僑報社、日中翻訳学院、中国研究書店、日韓大衆文化セミナー、日中韓交流フォーラムなどの充実に期待する。東方書店の「知日」という月刊雑誌ががんばってくれている。