才事記

笠間書店の「コレクション日本歌人選」1~3期の全60冊が揃い、いよいよ4期が始まった。すばらしい企画だった。4「在原業平」、19「塚本邦雄」、31「頓阿」、54「正徹と心敬」、56「おもろさうし」、59「僧侶の歌」などが印象にのこる。
ユヴァル・ノア・ハラリの『サピエンス全史』(河出書房新社)がベストセラーになったのには驚いた。かつてもジャレド・ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』(草思社)がゼロ年代のベスト1になったというので歓んだのだが、実際にはロクに読まれていなかった。今度もそうならないことを希うけれど、実は中身はあまり斬新ではない。同じ著者の次の『ホモ・デウス』は狙いはおもしろいのだが、いささか空振りだった。それでもこういう本が一般向け世界史テキストになるのなら、日本も見捨てたものじゃない。が、もうひとつのサピエンス史であるはずの、デイヴィッド・ライクの『交雑する人類』(NHK出版)が話題になっていない。これじゃお里が知れている。
清水高志や岡嶋隆佑らとの対談を収めた千葉雅也の『思弁的実在論と現代について』(青土社)と、同じく千葉の『意味がない無意味』(河出書房新社)。それなりに愉しめたが(ぼくは千葉のものはいつも愉しんでいる)、アートに踏みこんだところであまりに概念が不足した。「空回り」をめざすのであれば、まさに正徹や心敬や江戸戯作をとりこむといい。もっともっとメイヤスーから九鬼周造への転回を期待する。
野中モモの『デヴィッド・ボウイ』(ちくま新書)、西寺郷太の『プリンス論』(新潮新書)、および大著でありながら瑞々しい『ヴィヴィアン・ウエストウッド伝』(DU BOOKS)を奨めたい。ポップカルチャーがいかに前衛を辞さないファッションとともに唸り声を上げてきたのか、その真底が窺える3冊だ。ユニクロばかりじゃいけないよ。
集英社新書でシリーズ「本と日本史」が始まっている。神田千里の『宣教師と「太平記」』はまずまずで、ぼくとしてはこのあとの龍澤武の『百科事典の終焉』を愉しみにしている。最近、日本史の中の「本」が浮上しているのは嬉しい。
白井聡の『国体論:菊と星条旗』(集英社新書)の評判がいい。よく練られているうえに、端的な切れ味がよく、天皇とアメリカの隠れた裏地を暴くものとしても注目される。できれば先行していた赤坂真理の小説『東京プリズン』(河出文庫)や評論『愛と暴力の戦後とその後』(講談社現代新書)なども一緒に語られてほしい。
本づくりの面で2冊。本についてのアッサンブラージュ風の『本の虫の本』(創元社)、善養寺ススムが文章・イラスト・レイアウトを手掛けた江戸時代図鑑の英語版『Fantastic Edo Era』(入谷のわき書庵)が、丹念に本づくりをしていて好ましい。アニエス・ジアールの第2弾『愛の日本史』(国書刊行会)とともに推薦しておく。造本こそ電子書籍をぶっとばす。